建設状況: 2009. 04 | 2009. 05 | 2009. 12 | 2010. 01 | 2010. 06 | 2010. 12 | 2011. 03. 08 | 2011. 06 | 2011. 12 一覧はこちら
報告:有馬 寛(原子力研究開発機構)
今月より超高圧中性子回折装置PLANET建設の進み具合を茨城県東海村からご報告いたします。 1.はじめに | 2.ビームラインの概要 | 3.機器の設計と製作 | 4.建設の経過 | 4.1.ビームラインの設計(2008年11月-) | 4.2.ピット穴埋め工事(2009年7月) | 4.3.ビームライン測量(2009年9月) | 4.4.シャッター部及び生体遮蔽部コリメータ設置(2009年7月・9月) | 4.5.遮蔽体設置(2009年12月-) | 5.今後の予定 | 1.はじめに J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)のBL11に建設中のPLANETは高圧実験専用の粉末中性子回折装置である、中性子を用いた高圧下のその場観察実験を専用とする我が国初のビームラインとして2011年春の利用開始を目指し、建設を進めている。 2009年度前半に最上流部の光学系据付が完了し、2009年12月からビームライン遮蔽体の設置が始まった。2010年3月中に分光器室部を含む全遮蔽体が完成、また検出器やチョッパー、ガイド管等の機器が納品される予定である。本稿では2010年1月現在のPLANET建設の進捗状況について報告する。 2.ビームラインの概要 PLANETは高温高圧を主眼に置いた世界に類をみないビームラインであり、その特徴は分光器室内に設置される大型プレス“圧姫”(最大荷重1500トン)である。また多種多様な実験課題に対応できるよう、High-Qまでの測定と装置分解能の選択が可能な光学系となっている。 図1にビームライン構成の概略図を示す。ビームラインはビーム輸送部と分光器室、そしてそれらを囲う放射線防護のための遮蔽体に大別できる。 ビーム輸送部は鉄コリメータとガイド管、ビームスリット、チョッパーから構成される。鉄コリメータとビームスリットによって実験に不要な中性子を除去し、ガイド管によって目的の波長の中性子を高効率で試料位置まで輸送する。また測定波長幅を規定するためのディスクチョッパーが2台、パルス中性子発生時の高速中性子を止め、バックグラウンドを低減するためのT0チョッパーが1台設置される。 分光器室内には前述の大型プレスと検出器、そしてバックグラウンド低減のためのコリメータ類が設置される。大型プレスは移動が可能であり、DAC等の小型の高圧装置を使用する際には分光器室内の後方に退避する。検出器には90度バンクに計400本の3He PSDを配置する。これら検出器はMLF標準のデータ集積システム(DAQ)によって動作する。また検出器前にはラジアルコリメータを設置する予定である。 3.機器の設計と製作 2009年1月にビームライン建設がJ-PARCに承認されたことを受け、直ちに各機器の設計および製作に着手した。2009年度はチョッパー、遮蔽体、ガイド管、検出器本体、シャッター部と生体遮蔽部のコリメータ、ビームスリットの入札・発注が行われた。 現在、来年度の発注に向けて、大型プレス、DAQエレキ、検出器架台、分光器室内光学機器の仕様策定を進めている。また実験準備およびオペレーションを行うキャビンの整備についても検討を開始した。キャビン本体はBL11後方に設置する予定である。 現在、最も頭を悩ましているのが大型プレスの仕様である。大型プレスは最大荷重1500トン、焼結ダイヤモンドアンビルを用いてのKawai式二段加圧を想定している。問題のひとつは鋼板フレームタイプとするか四本柱タイプとするかということで、中性子実験の光学系への対応と取り回しの容易さを両立させる構造を検討中である。 4.建設の経過 4.1 ビームラインの設計(2008年11月-) 結晶から液体までを測定対象とする90度バンク主体の回折計としてPLANETの設計をスタートした。波長バンド幅、装置分解能、波長プロファイルについて、多様な要求を満たすため、数パターンの設計・検討を行い、最適解を探した。 具体的な設計は解析的手法による手計算とモンテカルロ法によるシミュレーションを併用して進めた。特に、光学系の設計においては光路追跡プログラムMcStasが、遮蔽体の設計に重要な放射線量の見積もりにおいては輸送コードPHITSが活躍した。 4.2 ピット穴埋め工事(2009年7月) PLANETの実際の建設は穴を埋める工事からスタートした。BL11にはMLF建設当初、別装置の設置が検討されており、線源から30 mの位置にピットが掘られていた。複数の工法を検討した結果、コンクリート流し込みによる穴埋めを選択した。配筋を敷設した後、2回に分けてコンクリートの打設を行い、ピットの穴埋めを完了した。 図2.穴埋め開始時のピット。 図3.コンクリート打設の様子。 4.3 ビームライン測量(2009年9月) 穴埋め完了後、各機器の据付けの際の基準となる床マーカーの設置を行った。次にこれらマーカーから作られるビームライン軸を基準とし、機器製作業者による墨だし作業が行われた。 図4.BL11基準マーカーの確認。既設の基準マーカーからビームライン軸を構成したのち、PLANET用のマーカーを数カ所に新設した。 図5.新設した床マーカー。 4.4 シャッター部及び生体遮蔽部コリメータ設置(2009年7月・9月) PLANET最初のビームライン機器としてシャッター部と生体遮蔽部の鉄製コリメータが納品され、これら機器の据え付け作業を行った。 据付作業は夏期のビーム停止期間中に行った。シャッター部については中性子源セクションの協力を得てシャッター部への挿入作業が行われた。生体遮蔽部については製作業者によって設置が行われた。生体遮蔽部ダクトへの挿入作業と位置計測を複数回繰り返した後、最終的に設置精度±0.5 mmで据付けることができた。 図6.シャッター部コリメータ。真空ダクトに挿入したのち、MLFに搬入しシャッターブロックへの取り付けを行った。 図7.前置き遮蔽体の移動作業。生体遮蔽部コリメータは実験ホール側から挿入するため、前置き遮蔽体を一時撤去した。 図8.生体遮蔽部コリメータの設置作業。前置き遮蔽体の移動・復旧を含めて作業には4日間を要した。 図9.生体遮蔽部コリメータの据付け後の真空引き試験の様子。到達真空度を計測すると同時にアルミ製ビーム窓の変形量を測定した。 4.5 遮蔽体設置(2009年12月-) 2010年3月の遮蔽体完成を目指し、MLF供用運転の合間を縫って設置工事を行っている。すでにビームライン輸送部の遮蔽体は設置が完了した。分光器室についても骨組みが完成している。 BL11は既設のBL10とBL12の間に建設するため、特にビーム輸送部が狭い。そのため遮蔽体の設計は困難を極めた。限られたスペースで放射線量を抑えることが要求され、素材と形状の最適化に苦心した。 MLF実験ホール内は日本古来の伝統色を基調としている。PLANETの分光器遮蔽体はあんず色である。 図10.側部遮蔽体の設置の様子。遮蔽体は非常に精度よく作られており、設置工事はほぼ問題なく進んだ。 図11.試料位置からみたビームライン輸送部遮蔽体。遮蔽体に囲まれた中央の空間には来年度、ガイド管の据え付けを行う。 図12.2010年1月現在のPLANET。分光器室遮蔽体の設置工事は2月以降に行う予定である。 5.今後の予定 今年度予定していた案件については無事に完了する目途がついた。2月から3月にかけて遮蔽体の残り部分を設置する。また、先に述べた大型プレスを始め分光器室内の機器についても仕様の検討を進めていく。本年度末に納品予定の機器(チョッパー、ガイド管、検出器、スリット)については4月以降、ビーム停止期間を使って随時設置工事を行う予定である。
J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)のBL11に建設中のPLANETは高圧実験専用の粉末中性子回折装置である、中性子を用いた高圧下のその場観察実験を専用とする我が国初のビームラインとして2011年春の利用開始を目指し、建設を進めている。 2009年度前半に最上流部の光学系据付が完了し、2009年12月からビームライン遮蔽体の設置が始まった。2010年3月中に分光器室部を含む全遮蔽体が完成、また検出器やチョッパー、ガイド管等の機器が納品される予定である。本稿では2010年1月現在のPLANET建設の進捗状況について報告する。
PLANETは高温高圧を主眼に置いた世界に類をみないビームラインであり、その特徴は分光器室内に設置される大型プレス“圧姫”(最大荷重1500トン)である。また多種多様な実験課題に対応できるよう、High-Qまでの測定と装置分解能の選択が可能な光学系となっている。
図1にビームライン構成の概略図を示す。ビームラインはビーム輸送部と分光器室、そしてそれらを囲う放射線防護のための遮蔽体に大別できる。 ビーム輸送部は鉄コリメータとガイド管、ビームスリット、チョッパーから構成される。鉄コリメータとビームスリットによって実験に不要な中性子を除去し、ガイド管によって目的の波長の中性子を高効率で試料位置まで輸送する。また測定波長幅を規定するためのディスクチョッパーが2台、パルス中性子発生時の高速中性子を止め、バックグラウンドを低減するためのT0チョッパーが1台設置される。 分光器室内には前述の大型プレスと検出器、そしてバックグラウンド低減のためのコリメータ類が設置される。大型プレスは移動が可能であり、DAC等の小型の高圧装置を使用する際には分光器室内の後方に退避する。検出器には90度バンクに計400本の3He PSDを配置する。これら検出器はMLF標準のデータ集積システム(DAQ)によって動作する。また検出器前にはラジアルコリメータを設置する予定である。
2009年1月にビームライン建設がJ-PARCに承認されたことを受け、直ちに各機器の設計および製作に着手した。2009年度はチョッパー、遮蔽体、ガイド管、検出器本体、シャッター部と生体遮蔽部のコリメータ、ビームスリットの入札・発注が行われた。 現在、来年度の発注に向けて、大型プレス、DAQエレキ、検出器架台、分光器室内光学機器の仕様策定を進めている。また実験準備およびオペレーションを行うキャビンの整備についても検討を開始した。キャビン本体はBL11後方に設置する予定である。 現在、最も頭を悩ましているのが大型プレスの仕様である。大型プレスは最大荷重1500トン、焼結ダイヤモンドアンビルを用いてのKawai式二段加圧を想定している。問題のひとつは鋼板フレームタイプとするか四本柱タイプとするかということで、中性子実験の光学系への対応と取り回しの容易さを両立させる構造を検討中である。
4.1 ビームラインの設計(2008年11月-) 結晶から液体までを測定対象とする90度バンク主体の回折計としてPLANETの設計をスタートした。波長バンド幅、装置分解能、波長プロファイルについて、多様な要求を満たすため、数パターンの設計・検討を行い、最適解を探した。 具体的な設計は解析的手法による手計算とモンテカルロ法によるシミュレーションを併用して進めた。特に、光学系の設計においては光路追跡プログラムMcStasが、遮蔽体の設計に重要な放射線量の見積もりにおいては輸送コードPHITSが活躍した。
4.2 ピット穴埋め工事(2009年7月) PLANETの実際の建設は穴を埋める工事からスタートした。BL11にはMLF建設当初、別装置の設置が検討されており、線源から30 mの位置にピットが掘られていた。複数の工法を検討した結果、コンクリート流し込みによる穴埋めを選択した。配筋を敷設した後、2回に分けてコンクリートの打設を行い、ピットの穴埋めを完了した。
図2.穴埋め開始時のピット。
図3.コンクリート打設の様子。
4.3 ビームライン測量(2009年9月) 穴埋め完了後、各機器の据付けの際の基準となる床マーカーの設置を行った。次にこれらマーカーから作られるビームライン軸を基準とし、機器製作業者による墨だし作業が行われた。
図4.BL11基準マーカーの確認。既設の基準マーカーからビームライン軸を構成したのち、PLANET用のマーカーを数カ所に新設した。
図5.新設した床マーカー。
4.4 シャッター部及び生体遮蔽部コリメータ設置(2009年7月・9月) PLANET最初のビームライン機器としてシャッター部と生体遮蔽部の鉄製コリメータが納品され、これら機器の据え付け作業を行った。 据付作業は夏期のビーム停止期間中に行った。シャッター部については中性子源セクションの協力を得てシャッター部への挿入作業が行われた。生体遮蔽部については製作業者によって設置が行われた。生体遮蔽部ダクトへの挿入作業と位置計測を複数回繰り返した後、最終的に設置精度±0.5 mmで据付けることができた。
図6.シャッター部コリメータ。真空ダクトに挿入したのち、MLFに搬入しシャッターブロックへの取り付けを行った。
図7.前置き遮蔽体の移動作業。生体遮蔽部コリメータは実験ホール側から挿入するため、前置き遮蔽体を一時撤去した。
図8.生体遮蔽部コリメータの設置作業。前置き遮蔽体の移動・復旧を含めて作業には4日間を要した。
図9.生体遮蔽部コリメータの据付け後の真空引き試験の様子。到達真空度を計測すると同時にアルミ製ビーム窓の変形量を測定した。
4.5 遮蔽体設置(2009年12月-) 2010年3月の遮蔽体完成を目指し、MLF供用運転の合間を縫って設置工事を行っている。すでにビームライン輸送部の遮蔽体は設置が完了した。分光器室についても骨組みが完成している。 BL11は既設のBL10とBL12の間に建設するため、特にビーム輸送部が狭い。そのため遮蔽体の設計は困難を極めた。限られたスペースで放射線量を抑えることが要求され、素材と形状の最適化に苦心した。 MLF実験ホール内は日本古来の伝統色を基調としている。PLANETの分光器遮蔽体はあんず色である。
図10.側部遮蔽体の設置の様子。遮蔽体は非常に精度よく作られており、設置工事はほぼ問題なく進んだ。
図11.試料位置からみたビームライン輸送部遮蔽体。遮蔽体に囲まれた中央の空間には来年度、ガイド管の据え付けを行う。
図12.2010年1月現在のPLANET。分光器室遮蔽体の設置工事は2月以降に行う予定である。
▲このページのトップへ
トップページへ戻る
Copyright © Institute for Solid State Physics, University of Tokyo. All rights reserved.